「くそっ。あの元始天尊まがいのクソじじい。ちょっと借り作ったからってよぉ……」

 正直その例えはどうかと思います。
ぱたぱたと風に靡く前髪を押さえつつ、運転席に座る≪人類最強の請負人≫こと哀川潤は、不機嫌さを隠そうともせずに不満をぶちまける。

「いや、実物見ればいーたんもそう思うって」

 どうやら僕の考えは筒抜けらしい。
いや、まあ、今更と言えば今更なのだが。

 ……それはさておき。
何故ぼくが哀川さん愛用のコブラ(当然の如く真っ赤なオープンカー)に乗せられているかと言えば、詰まるところ『お仕事』に付き合わされているからなのだ。
経緯は至って単純、突然部屋に尋ねてきて「手伝え、いーたん」の一言。
……この自主性の無さと流されやすさはどうよと思いつつ、一度反省した所で人間変われるものではなく。

「で、今回はどんな事をやらされるんです?」
「やらされるってのはねーだろ、いーたん」
「……では、どんな事をお手伝いさせていただけるのでしょうか」
「んー、それがよ、先生だとさ」

 ……は? 先生? あの天上天下唯我独尊を地で行く哀川潤が? 一体何を言っているのだこの人は。

「マジですか?」
「うん、マジ」

 ……どうやら本当のようで。
とりあえず、先生と聞いて連想するあれこれといえば。学校。教科書。授業。メガネ。個人授業(放課後)。
……偏ってるのは兎も角、ふと、メガネ着用の哀川さんを想像してみた。
えー、なんというか、まあ、ぼくも男ですから、悪くは無いですね。

 ……どうやら今のは心を読まれていなかったらしく、哀川さんは話を続ける。(覗かれていなくて良かったと切に思う。)

「なんかさ、英語の教師兼クラス担任が過労で寝込んじゃったらしくてな。あたしはその代わり――ってこと。あーあ、面倒臭い」

 確かに、わざわざ請負人である哀川さんに頼むほどの事ではない。何か裏があると見てよさそうだ。

「でさー、何が面倒かって『魔法』が絡んでることなんだよな。胡散臭いから出来るだけ関わんないようにしてたんだけど。
あっちに言わせりゃ『科学と何ら変わらない』らしいけどな。
『常識で常識を起こすのが科学。非常識で常識を起こすのが魔法』だってさ。あーあ、面倒くせー」

 ならば常識で非常識を起こすのが≪異能≫――と言ったところだろうか。
いや、哀川さん含め色々な意味で異能の方々が常識的だとは思わないのが本音だが。

 「もうそろそろ到着だぜ、いーたん」と再度溜息をつきながらそう言い、ハンドルを握りなおす哀川さん。

 ……にしても。
『魔法』と来たか。普段からそれなりに非日常と触れ合っているつもりだったけど。
どうにも嫌な予感がする。そもそもこのシチュエーションからしていい予感はしないというものだ。
強制連行に、行き先は学校。まるきり首吊高校の時と同じじゃないか。まあ、今回は女装という要素がないだけマシだけど――――

 「そういえばさ、いーたん」何かに気が付いたようにそう言って、哀川さんは満面の笑みを浮かべる。
それは当然の如く、皮肉と悪意に満ちた物で。

 どうしようもない程無慈悲な悪寒に身を震わせながら、ぼくは次の言葉を促した。



「今から行くところ、女子校だから」



 神よ。あなたは馬鹿ですかこんちくしょう。





                               □





「ネギ先生の代わりとして臨時講師になった哀川潤だ。そしてこちらは転校生のいーたん。本名はヒミツ。なぜならその方がカッコイイから」
「自己紹介くらい真面目にやってくださいよ。……名前は教えないですけど」


 突然の事態に戸惑いを隠せない3−Aの面々!


「おいおい、授業中に居眠りしたらダメだろ? えーと、16番佐々木まき絵。廊下で立ってなさい。ただし、“ジョジョ立ち”でな……」
「えー、では14番早乙女ハルナ。この化学現象を分かりやすくスタンドに例えな」
「あんまりあたしを怒らせるなよ? あたしは滅茶苦茶心が広いけど、気はみじけーんだよ。実は一週間に一回超サイヤ人になる」


 徐々に暴走し始める≪赤き女王(クイーン・クリムゾン)≫(25番が命名)こと哀川潤!
それに比例するように(主に精神的な)疲労の溜まっていく≪戯言遣い≫こと我らがいーちゃん!


「……えと、契約期間は一週間でしたっけ? だったらあと三日で終わりですね」
「何事も無く終わるといいけどな……」




 ――――……事態は急転する。
この巨大学園都市――麻帆良の学園長であり、依頼主でもある近衛近右衛門が撲殺体で見つかったのだ。
哀川潤の不安は『死』と言う形を持って到来した。


「うわ、ホントに元始天尊みたいな頭してますね」
「……血も涙も無い野郎だな、いーたん」


 容疑者は――――学園の人間全て!


「哀か……いえ、潤さん。血文字です。恐らくダイイングメッセージでしょう」
「なんて書いてある?」
「『ちぅちゃんの姿をもう一度……』だそうです」
「……変態だな」
「変態ですね」


 学園長・近衛近右衛門の隠された性癖とは!?


「まさか……アンタ、男?」


 いーちゃんの女装はやっぱりバレてしまうのか?


「ていうかなんで姫ちゃんに頼まなかったんですかっ!?」
「いやさ、一姫は性格的に問題あるだろ。突っ込み役がいないじゃん」
「男を女子校に潜入させる方が問題ですっ!」


 いーちゃんの突っ込みが冴え渡る!


「もうさ、面倒だから犯人はスタンド使いって事でよくないか?」
「いや、むしろ仙人か道師って事にして凶器は宝貝で……」


 へビーメタルサンダーの如く熱い(?)推理合戦!


「最初に殺されてしまえば、『被害者』となってしまえば後は自由に動くことが出来る。
手垢の付いたトリックだが、まさか本当に使う馬鹿がいるとはな――そうだろ? クソじじい――いや、近衛近右衛門」
「フォフォフォ。流石じゃのう。哀川潤――――!」


 そして、≪人類最強の請負人≫と≪戯言遣い≫によって全ての謎が暴かれる――――!


 最早ネギま! とクロスさせる意味が全く感じられない嘘予告第四段!


 このディ・モールト(物凄く)馬鹿げた物語に参加せよ!


 散りばめられたヒントを元に、全ての謎を解き明かせ!


 決め台詞は――――



「手前のやったことは全部まるっとお見通しだ!」



 ――……パクリかよ。











後書き。

やりすぎた感が拭い切れないこの作品。
作中にも書いてあるけれど、ネギまとクロスさせる意味が全く感じられない罠。
まあ、そこは純然たる趣味ということで一つ。




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