「まずい……このままではぼーやの心臓は石化する……!」

 白髪の少年の残した呪いは、確実にぼーやの命を削り取ってゆく。

「ちょ、ちょっとネギはどうなるのよ!?」
「このままでは……死ぬ」

 周囲の雰囲気が変わる。当然だろう、こんな十歳の少年の命が今にも失われようとしているのだから。  ――――だが、どうする? 詠春の娘と仮契約させるか? だがあの娘の意識は無い……。 仮契約とはいえ本人達の了承が必要だ。このまま無理矢理たたき起こすか? いや、不安定なままでは失敗の恐れがある……。

 ――――――ならば。

「仕方が無い……これだけはやりたくなかったが……」
「助ける方法があるの? ならそれを……」
「だが、それをすることはぼーやが人間を辞めることと同義だぞ」

 やはり、戸惑いの表情が浮かぶ。
しかし――――

「何いってんのよ! 死んだら元も子も無いじゃない!」

 神楽坂明日奈だけは違う。どうしようもないほどの純真な瞳でぼーやを睨みつける。

「ちょっとあんた! 何死のうとしてんのよ! 父親の跡をおかっけるんじゃないの!?」

 その言葉に――――

「―――― 、お――父、――さ、」

 ――――ぼーやの意識が一瞬だけ、戻った。

「……生きたいか?」
「     」

「生きたいのかと聞いている! 人間を辞めてでも、地を這いずってでも生きたいかと聞いているんだ!」

「 生、――き、たい」

 ――――答えは、出た。今、ぼーやの口から答えが出たのだ。
……ならば、躊躇する必要は無い。

 私はゆっくりとぼーやの首筋に歯を当てる。
そしてそのまま――――ブツリ、と皮膚を破る。
二つの傷口から一筋の血液が流れ落ちる。

 酷く甘美な味。こんな状況でなければ永遠に時が止まってほしいと思えるほどに。
だがこのままでいるわけにはいかない。私の血液をぼーやに流し込む。

 血液とは魂の通貨。血液の交換という行動は、つまり魂を分け合う事と同義。
今この瞬間から、ぼーやはぼーやでなくなり、同時に私の一部でもある。

 この時、この行為がさらにぼーやを苦しめるなどとは、少しも思っていなかった。



 ■



「みなさんさよーならー!」

 歳相応の無邪気な笑顔でさよならの挨拶をする。
ぼーやは、まあ良いとして、それに同レベルで付き合えるコイツらは如何なのだろう。

 そんなしょうもない思考を振り切り、家に帰ろうとした時――――――

 ばたり、と。
ぼーやが倒れた。

「……なッ! なに……?」

 なんの前触れもない、突然の出来事に皆騒然となる。

「ちょ、ちょっと誰か保健室に――――」

 そんな声も、よく聞こえない。

 私はこの時、ようやく理解していた。
何も、終わってなかったんだということを。
まだ、続きつづけていたんだということを。



 ■



 保健室のベッドで横になるぼーや。
そしてその背中には――――禍々しい棘が絡みついている。

「どうしちゃったのよ……ネギ……」

 神楽坂明日奈が、何か覚悟を決めたような眼でこちらを睨む。

「分かってること全部話して。どうせこの棘が関係してるんでしょ!?」
「……見えるのか? これが……?」
「何言ってるの? ここにあるじゃない。ほら……」

 そう言ってぼーやを苦しめる棘に――――

「……あ、れ?」

 ――――触れられない。
何度繰り返そうとも、実像のない棘のビジョンをすり抜けるばかり。

「……わかった。他にこの棘が見えるヤツはいるか!? 至急集まって欲しい――――」



 ■



「これは俗に『スタンド』と呼ばれるものだ」

 エヴァンジェリンの言葉が“別荘”の一室に響き渡る。

「『スタンド』……?」
「聞いたことないアルネ」
「当然だ。魔法や魔術とは違って限られた者にしか使えない、いわば超能力みたいな物だからな」
「超能力……」
「超能力を持った守護霊のようなもの……とするのが手っ取り早いな。例えば――――」

 そう言って、エヴァンジェリンは右手を軽く挙げる。

「見ていろ」

 言うなり――――彼女の右手に、棘が生え始める。

「な……」
「≪隠者の紫(ハーミットパープル)≫という。能力としては……“念写”だな」

 腕に生えた棘を仕舞い、三人――――明日奈、古菲、 刹那を見据える。

「『スタンド』能力は、個人によってさまざまだ。症例から見るに……ぼーやは“受信”だな。しかし……酷く中途半端なものだ」
「どういうことよ、それ」
「ぼーやは元々スタンド使いではない。だが忘れたか? いまのぼーやは吸血鬼だ。私と魂を交わらせた。
それによって『スタンド』に目覚めたと考えるのが妥当だろうな」

 そこで一旦話を切る。彼女の顔に浮かぶのは、後悔と懺悔の表情だ。

「だが、スタンドを操るのは強い精神と闘争心だ。いくらぼーやの精神力が並外れていても――――この平和主義の塊みたいなぼーやには毒にしかならない」


「――――そして、ここからが本題だ。いくら身体に悪影響があると言ってもこの症状は不自然すぎる」
「知ってるんでしょ? 原因」
「ああ。三日ほど前、ある吸血鬼が復活した……DIOというんだがな。ソイツは復讐したがってるんだよ、私に。今でも無茶苦茶な量の負のエネルギーが流れ込んできている……明らかに、憎悪の感情だ。
そして――――私と魂の一部を共有しているぼーやにもそれが流れ込んだという訳だ」
「なら、そいつを倒せば――――」
「――――ぼーやを助けられる」
「そういえば……そのDIOって奴とはどんな関係なのよ。やたら詳しいけど」
「――――ふん。あんな奴のことは思い出したくないんだがな」

「DIOは――――私の実の姉だ」



 ■



 ネギに残された時間は、約五十日。
その短いタイムリミットの中、スタンドを顕現させた少女達はインドへ旅立つ。


 行く先々で起こる強力なDIOの部下達との戦闘!


「≪ハーミットパープル≫! 敵の位置を“念写”しろっ!」

「喰らうアルヨ! ≪魔術師の赤(マジシャンズレッド)≫!」

「行けっ! ≪皇帝の緑(ハイエロファントグリーン)≫!」
 
「≪スタープラチナ≫!! 舐めんじゃないわよ! オラオラオラオラオラオラオラオラオラ―――ッ!!」


 旅の途中で出会う頼もしい仲間――――ポルナレフ!


「アタシの名前はポルナレフ。古菲! アンタのスタンドは実にブラボーよ!」
「≪シルバーチャリオッツ≫! 全てを切り裂けッ!」


 さらにもう一人――――


「オレッチの≪愚者(ザ・フール)≫を舐めんじゃねえ! 兄貴のためなら何だってやってやるぜッ!」


 長い道程の末、たどり着いたDIOの館。しかし、そこには更なる刺客が待ち受ける!


「桜咲刹那! 貴様、このゲームやり込んでいるわねッ!」
「答える必要はないですよ」

 ――――そして、仲間との悲しき別れ……


「このヴァニラ・アイスのスタンドに弱点など無いのよ!」

「皆……サヨナラアルヨ」
「クーフェイ!!」


「ポルナレフの姐さん……アンタはここで死ぬ人間じゃない……これで最後ですぜ! うおおおおおッ! ≪ザ・フール≫!!」



 そして――――DIOとの決戦……!


「無駄無駄無駄無駄――ッ! そんな攻撃ッ! 効かないのよ!」
「――くっ……いつの間に移動したッ!?」


 刹那の命を賭した行動――――!


「≪ハイエロファントグリーンの結界≫よ! DIOを閉じ込めろッ!」 


「≪世界(ザ・ワールド)≫!」
DIOの攻撃が容赦無く刹那を貫く……!


「エヴァン 、ジェリ――さん……DI Oの  、能力 は― 、時を――――」


「≪世界(ザ・ワールド)≫! 時よ止まれッ!」
“時を止める”――――最強の能力!


 DIOの脅威は、自らの肉親であろうとも衰えず――――


「なじむ! 実になじむわ! 完全復活はやっぱり肉親の血じゃなきゃね……! 最高に『ハイ』って奴よッ――――!!」


 そして――――


「≪世界(ザ・ワールド)≫! 時よ止まれッ! ……今の私は九秒間時を止められる。……それが何を意味するか分かる?
貴女も“止まった時”の中で一瞬だけ動けるみたいだけど……それでは何の意味もない。貴女にあるのは“死”のみよッ!」


 ――――決着!!

「な……なんですって?」
「私が時間を止めた……『九秒』の時点でね」


 明日奈は皆を、ネギを救えるのか?
今ここに、因縁の戦いが幕を閉じる!


「たったひとつのシンプルな答えよ……『アンタは私を怒らせた』」






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