――――仕留め損ねたみたいね。それに――

 静寂に包まれた闇に、二つの影が浮かび上がる。
一つは人間、もう一つは、者ではなく、物。只の屍。
者は物を見つめる。
その死体からはドクドクと溢れ出し、麻帆良学園の地を血で染め上げている。

 ――――“巻き込んだ”。

 死体の胸部にはポッカリと大穴が穿たれている。その傷は、どうしようもなく致命傷だった。
おそらくこの少年は苦しむ間もなく死んだのだろう。

 ――――魔法先生とはいえこっちの世界じゃ一般人だし……殺すわけにはいかないか。
核金を使うのは気が引けるけど――――まぁいいや。面倒事は、好きじゃないし。

 シスターの服装に身を包んだ少女は、懐から七センチ程の、六角形を象った金属塊を取り出す。
そしてその金属塊――“核金”を、戸惑う事無く少年の胸部に乗せる。――核金は、まるで意思を持つかのように――――ズブズブと体内へ進んでゆく。

 ――――ネギ先生、少しだけ貴方に興味が湧きました。

 体内に留まった核金は、貫かれた心臓に成り代わり脈動を始める。
停止していた血流は流れを取り戻し、全身に核金のエネルギーを運びだす。
核金は完全に肉体と同調(シンクロ)し――――終わったはずの少年の命は、ここに復活した。



 かくして、新たな物語が始まる――――





 『――――気をつけなさい』

 突如、ネギに届く謎のテレパシー。

「なんなんだろ、あの声」


 そして、秘密を知った少年に魔の手が迫る――――

「ああ、ネギ君。後で校舎裏まで来てくれるかな? 話があるんだ」
「分かりました、巳田先生」


 そこは、少年の命が消えた場所。そして――――


「何か用事があるんですか? 巳田先生」
「ああ――――君に、死んでもらいたいんだ」

 その言葉と共に――――巳田の身体が変化を始める。
皮膚は乾燥した土のように剥がれ落ち、口は耳まで裂けてゆく。
剥がれた皮膚の内側からは、独特の光沢を放つ金属が顔を覗かせる。

 ――――そして、その金属は膨張するかのように体積を増してゆく。
その姿は、神話に出て来る蛇を模したかのように巨大で、凶暴で――――酷く、おぞましかった。

「――――っ! その身体……一体!?」
「――あの女から聞いていないのか? と言うことは昨日の記憶も無いわけか。……まあいい。この姿を見られた以上、君を生かしておくことは出来ない――――」

「――――なぜ生きているかは知らんが――――大人しく喰われろ、坊主」

「――――!」
 少年の口が紡ぐは、敵を貫く光の矢。

 ――――しかし、少年の抵抗は、“錬金術”の前に脆くも崩れ去る。

「――――効かない!?」
「本当に何も知らんようだな。――――まあいい。貴様を喰った後あの女も餌にしてやる」
「くっ……」

 絶対絶命の窮地。しかし……

 『何をしているの? 核金を発動させなさい。錬金術は錬金術でしか破壊できない。教えたでしょう?』

「――――あなたは誰なんですか!?」

 『……酷いですね、ネギ先生……――――まあいいです。ホントに何も覚えてないみたいですし。今から私の言う通りにしてくださいね』

「何をするつもりですか――――?」

 『あのバケモノを倒すんです。いきますよ?』

 『――――闘争心。“戦う”のだと意識してくださいな。胸に覚悟を、覚悟を掌に。掌を――――核金に。』

 『叫べ―――――』


 ≪――――“武装錬金”ッ!!≫


 ――――少年が、新たな力を手に入れた場所。


「それは……武装錬金ッ! なぜ貴様が……!」
「行きます――――」
「――――ッアアアア!!」

 大蛇の身体を貫いたのは――――少年が右手に持つ突撃槍(ランス)。
橙色の布を閃かせ、ネギは地に立つ。

「理屈屋っぽく見えて実は一直線……先生の性格そのままですよ、そのランス」
「――――え?」
「……あと、始末はきっちり着けなきゃダメですよ?」

 その声と同時に――――シスター服のスリットから伸びる四本の、処刑鎌デスサイズが、敵を容赦なく殲滅する――!

「かっ……春日さん――――!?」





「……と言うことは、最近の失踪事件は全て――――」
「ええ、ホムンクルスの仕業です」
「そんな……」


「ネギ先生、あなたには今、二つの道が用意されている。一つはこのまま日常へ帰る事。もう一つは“錬金の戦士”としてホムンクルスを倒すこと」
「どちらを選ぶかは、貴方が決めることです」
「……ホムンクルスは、今も人を喰ってるんですよね?」
「ええ」
「なら――ほおってなんか、おけません。――――僕は、戦います」

「いい目をしてますね、ネギ先生。この私の権限において、貴方を正式な“戦士”として迎え入れましょう」
 


 次々と巻き起こるホムンクルスとの戦闘!


「臓物(ハラワタ)をブチ撒けなさいッ!」

「うおおおおッ! サンライトクラッシャーッ!」


 美空を侵食するホムンクルスの幼生体――――! 

「人間でいられるのは――――あと二週間ってところですかね。ハハ……」


 徐々に明らかになる真実――――


「敵の目的は――――“人型ホムンクルス”の製造です」


「どうしたアルカ? ネギ坊主」
「超さん……なぜホムンクルスなんかを創ったんですか!」
「簡単な事アルヨ。――――死ぬのが怖いわけじゃない。時間が足りないアルヨ。世の理の全てを知るためには――――人生程度じゃ短すぎるからネ」
「それだけの為に――――」
「『それだけの為に』――――永遠の命を欲する……何がいけないアルカ?」
「――――っ!!」


「ごめんなさい、ネギ先生……幼生体が、脊髄まで上ってきてる。もう下半身は動かなくなってる。……人でなくなる前に、私は、私自身に、始末を、付け、ます」

 美空の身体を蝕むホムンクルス。そして――――

「ああ、気分がいいアル。これが――――超人」

 禍々しき、蝶々仮面パピヨンマスクがにやりと、ワラウ。
――――無情にも、人型ホムンクルスは誕生した――――!

「さあ、“超人”チャオの生誕祭を始めるアルヨ。――――手始めに、麻帆良の人間を全員喰ってやるネ」

  ネギは、麻帆良の皆を、美空を守れるか?
今ここに、少年の思いが一つの形を成す――――

       
「――――“武装・錬金”!」


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